なぜスキルが不足しているのか
私はプロジェクトマネージャーとして22年間、数千人を超える同業者と仕事をしてきました。そこで出会ってきたプロジェクトマネージャーの力量は玉石混淆です。
「プロジェクト推進に関する意識調査」という調査(株式会社ネオマーケティング, 2020)によると、プロジェクトマネージャーのスキルについての質問で「スキル不足のPM(プロジェクトマネージャー)が多い」と答えた回答者は 19.4%、「どちらかといえばスキル不足のPMが多い」と答えた回答者は 48.1% と、約7割がスキル不足のプロジェクトマネージャーがいると認識しています。
新規事業やDX など、より高度なスキルが必要とされる今後、ニーズと人材供給のギャップは社会問題としてより一層浮 かび上がってくるでしょう。
なぜ必要なスキルを備えたプロジェクトマネージャーが少ないのでしょうか。その理由として、主に次の2点が挙げられます。
● 世の中で流通しているプロジェクトマネジメントの共通概念が抽象的で利用しづらい
●「実務で覚えなさい」という方法論であるOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が機能していない
本来、プロジェクトを円滑に遂行していくためには、PMBOK などの 知識体系をベースに組織の体制を整備していく必要がありますが、これには経営層の認識の刷新や組織の改革を伴うため、時間も費用も莫大にかかります。
多くの企業ではこれをすべて行うのは現実的に無理がある でしょう。プロジェクトマネジメントの共通概念を実践知として広めるためには、日本の組織の実情にあわせてノウハウを再整備しなければなりません。
機能していないOJT
OJT が有効に機能するためには、プロジェクトマネジメントを体系的に修得していて、それを的確に人に教えられるシニアクラスのプロジェクトマネージャーが社内にいることが前提となります。そのような人材は非常に少ないというのは先ほどの調査で理解できるでしょう。
スポーツの世界では「優れたプレーヤーは優れた指導者になるとは限らない」といわれますが、プロジェクトマネジメントの世界でも同じです。
「実際にプロジェクトをこなすスキル」をもつ人の中でも「ノウハウを他人に教えるスキル」までを備えた人材は本当に希少なのです。
また、プロジェクトマネジメントのスキルをもっているシニアクラスのプロジェクトマネージャーは「エース」として組織にとって重要なプ ロジェクトにアサインされており、きめ細かく若手人材を育成するため の時間を割けないことが多いという実情もあります。
OJT が有効に機能しない状況で新人がプロジェクトの現場に投入されると、右も左もわからない状況に陥ってしまい、「目の前の不明点を質 問するばかりで不安になる」や「失敗から学ぶ」ことになって、成功体 験を積めずに挫折してしまうことになりがちです。
さらに、OJT では偏った経験や知識しか積めないため、転職した際や経験したことがない種類のプロジェクトを担当する際に大きな失敗をすることにもつながります。
たとえば、to C(一般ユーザー向け)の自社アプリを開発する企業でキャリアを積んだプロジェクトマネージャーがto B(事業者向け)の受託システム開発を担当する企業に転職した場合、必要とされるスキルが大きく異なるために、失敗してしまうことがよくあります。
多様なスキルが必要なプロジェクトマネージャーの育成において、事前教育なしのOJTが有効に機能するケースは非常に少ないのです。