プロジェクトマネジメントとはなにか。一言でいってしまうと、球拾いです。
練習している選手の周りでボールを拾い集めてサポートするのと同じように、プロジェクトメンバーが気持ちよく働けるように先回りして障害やリスクを取り除いたり、トラブルを最小限におさえたりする地道で細かい作業の積み重ねです。
しかし、世の中には「プロジェクトマネージャーは偉い」と勘違いして、権力を振りかざしたり、細かく指示出ししてプロジェクトメンバーをコントロールしようとしたりする「ストロングスタイル」の人もいます。人は一から十まで指示されると創造性を発揮しなくなり、いわれたことしかやらなくなります。また、そもそもの計画に無理があるのに理不尽なプレッシャーをかけられると、ストレスでメンタルを病んでしまったり、転職したりしてしまいます。 技術が高度化し不確実性が高い現代のプロジェクトマネジメントは、権力を使うのではなく、体系化されたスキルを駆使してリスクをコントロールする「プロフェッショナルスタイル」が求められるのです。
誰のための本か
私は過去22年間、IT業界で50社以上(スタートアップから東証一部上場企業まで)、500件を超えるプロジェクト(Webサイトからアプリ、基幹システム、業務改善、新規事業、DX まで)にかかわってきました。会社員として自社サービスの立ち上げを担当したり、業務委託としてクライアントの業務システムやアプリを受託開発したり、フリーランスとして他社の新規事業立ち上げに参画したり、自社のプロジェクトに関する判断を行ったりしてきました。
これらの経験から得られたノウハウを体系化して、再現性のあるプロジェクトマネジメントのスキルとしてまとめたのが本書です。
ですので、「プロジェクトマネージャー」とよばれている人やこれからプロジェクトマネージャーになろうとしている方を第一の対象としています。
しかし、新規事業や DX の取り組みのように、IT が組織のあり方やビジネス全体に影響する時代では、プロジェクトにかかわるプロジェクトメンバーも、プロジェクトマネジメントの知識は「ビジネス教養」として必須になるでしょう。それは、IT業界のみならず、メーカー・商社・小売・金融・サービス・マスコミ・官公庁・公社・団体などあらゆる業界においても同じです。
さらに、プロジェクトの遂行や評価に責任をもつ経営層や管理職、プロジェクトマネージャーの採用にかかわる方にとっても欠かせない知識といえるでしょう。
プロジェクトとメンバーを守ることが仕事
私自身、これまでたくさんの失敗や苦労を積み重ねてきました。何か月も深夜まで設計書を書き続けたり、打合せでクライアントから何時間も罵倒されたりしたこともありました。「もうだめだ。逃げてしまおう」と何度思ったことでしょう。そんなときにいつも思い返す言葉があります。 「プロジェクトマネージャーはプロジェクトとメンバーを守るのが仕事だ」 これは私がプロジェクトマネージャーとして駆け出しの頃、少しだけ先にキャリアを始めていた同僚がいった言葉です。守るといっても自己犠牲ではありません。これでは本人が先に潰れ、プロジェクトも失敗してしまいます。 守るためには実力が欠かせません。実力を高めるためには正しいスキルを身につける必要があります。本書にまとめたプロジェクトマネジメントのスキルは、プロジェクトとメンバーを守るために、私の中で自然と体系化されたものです。 歯を食いしばりながらここまでプロジェクトマネジメントの仕事を続けてきましたが、プロジェクトがうまくいったときの達成感や周囲からの感謝の声は他のなににも代え難いものがあります。苦楽を共にしたプロジェクトメンバーから「また一緒に仕事しましょう」といわれると、本当に報われる気持ちになります。 プロジェクトは本来、人がやりたいことを実現するための「希望」からスタートするものです。希望を育てるには大きな投資や努力も必要です。それがスキルや知識の不足が原因で、不幸な道筋をたどってしまうのは本当にもったいないことです。 本書がみなさんのプロジェクトの成功に少しでも役立ちましたら、これ以上の喜びはありません。