20数年前の自分に向けてプロジェクトマネジメントの教科書を書いた話

2022/11/8 橋本将功 プロジェクトの考え方

11/8(火)に22年間の血と汗と涙の結晶となるプロジェクトマネジメントの教科書を出版します!

本の中身は下記のような感じで、プロジェクトマネジメントのスキルセットの全体感と実践的なノウハウを詰め込んだものになっています。

プロジェクトはちょっとしたコツやリスクの回避方法を知らないことで大炎上して自分自身やプロジェクトメンバーが鬱になってキャリアを挫折したり、関係者の家庭が崩壊したり、会社が何千万円とか何億円も損失を出したりするので、そんな悲劇が少しでも減って、みんなが成功して世の中が豊かになればいいなという気持ちで必死こいて書きました。
 


書籍より引用(画像は出版前のものです)

想定する読者層は「プロジェクトマネジメント初級者・中級者」と「それなりにプロジェクトの経験あるけどメソッドの体系化まではできておらず密かに日々の業務で不安を抱えている人」です。

例えば、会社からプロジェクトを丸投げされて途方に暮れているプロジェクトリーダーや発注担当者の方、「会社のプロジェクトがトラブルや炎上ばかりで何とかしないといけないけど、PMBOKは取っ掛かりがなくて導入できそうもない」と考えているマネージャーの方には参考になるところがあるのではないかと思っています。

この本を書く上で意識したのは、できるだけ多様なプロジェクトをカバーする汎用的なメソッドを提供しつつ、教科書的に読者が実務でつまづいた際に必要に応じて定期的に参照できるような本にする、ということでした。

後半は具体性を出すためにITプロダクト開発の話になっていますが、前半のプロジェクト全般についてのノウハウについては非IT業界の方でも参考になるのではないかと思います。

自分が講義や組織コンサルティングでプロジェクトマネジメントのメソッドについて話すときは、興味を持ってもらうために割と経験談とか毒とかエモい話を交えて話すのですが、何度も読む本だとそういう話はクドくなってしまうと思い、前書きと後書き、Q&A、コラムに少し書いただけで他はガッと削ってしまいました。

なので、この記事ではそのあたりの話をちょっと補いつつ、これから本を書く人に向けて体験談みたいなものを残しておこうと思います。
 


リアルなQ&Aも入れました(画像は出版前のものです)

 

本を出版するまでの経緯

自分は何の因果か20年以上も現場でプロジェクトマネジメントをやる業(カルマ)を背負って生まれてきまして、キャリア的にも東証一部上場企業からスタートアップまで50社以上と関わり、プロジェクトは基幹システムから Webサイト、アプリまで500件以上に関わるという比較的珍しい経歴を歩んできています(普通は経験積んで偉くなったら組織のマネジメント側に行きますよね)。

IT業界に入ったのは2000年、ちょうど就職氷河期最悪の年でした。当時はまだブラック企業という言葉すらなく、労働者は丸投げ・過重労働が当たり前で、上の世代から面と向かって「仕事があるだけ有り難いと思え」と言われるような世代でした。

元々はプログラムを書くことが好きだったのでソフトウェアエンジニアになりたかったのですが、他の人がやらない企画や雑事や取りまとめ業務をやっているうちにディレクターやプロジェクトマネージャーと呼ばれるようなポジションに収まるようになりました。

最初は社内ツールやサービスの機能改修などのシンプルなプロジェクトを担当していましたが、次第に新規事業立ち上げなど、大きなプロジェクトを任せてもらえるようになっていきました。ただ、システム開発やプロジェクトマネジメントについて教えてくれる人はおらず、必死に読書で学習しながら、都度デザイナーやソフトウェアエンジニアに怒られながら、10年ぐらいは何とか大量の残業に埋もれながらプロジェクトをこなしていくような日々を送っていました。
 

そのうち、自分の中でプロジェクトマネジメントのノウハウが蓄積されていき、プロジェクトに関わる立場としても、発注側、ベンダー側、PMO、社内教育、自社のプロジェクト決裁者と複数の立場で関わることで、自然と自分の経験を相対化してノウハウを体系化できるようになりました。

起業後はそのあたりのノウハウをツールにしたり、業務委託としてクライアントの新規事業/DX系のプロジェクトをマネジメントしたり、ご依頼いただいた企業の組織改革のコンサルティングなどをやるようになったのですが、その中で一つの悩みを抱えるようになりました。

それは「自分自身が担当するプロジェクトをスムースに進行したり、相談された組織の課題は解決できるようになったけど、他の人が自分自身でプロジェクトを成功できるようにサポートできないだろうか?」というものです。

多くのプロジェクトが動いている組織で働いている人は理解できると思いますが、プロジェクトマネジメントは全体性が強いため、例えば隣の部署でプロジェクトが大炎上していても、外部からちょっと手助けしてなんとかすることは極めて難しいのです。

また、プロジェクトマネジメントは多領域に関わるノウハウが必要なため、あるプロジェクトでジュニアクラスのプロジェクトマネージャーをOJTで教育してその人に実務経験が増えたとしても、その人がまた別のプロジェクトで活躍できるようになるとは限りません。

例えば、大規模業務システムの機能拡張プロジェクトをうまくできたからと言って、次のプロジェクトで一般カスタマー向けアプリの新規立ち上げがうまくやれるようになるとは限らないのです。

上記の理由から、プロジェクトマネージャーの育成は非常に難しい上にストレスから脱落する人も多く、社員教育やコンサルティングで関わってきた組織はどこも同様の悩みを抱えていました。
 


丸投げで鍛えられる人もいますが、それだけ脱落する人も多く、
優秀なPM不足の原因になっています(元画像は諫山創「進撃の巨人」第4巻第15話,講談社より)

多くの企業でジュニアクラスのプロジェクトマネージャーやディレクター、新規事業担当者の方とプロジェクトで関わっている中で、上記の悩みはずっと心のなかに澱のように溜まってきました。企業や社会の生産性を高める上で、優秀なプロジェクトマネージャーの育成はまさに本丸と言えるような課題だと感じ、それに対してなにかできないかと考え続けていました。

それがある時、クライアントから「プロジェクトマネージャーって要するに何ができないといけないんですかね?」という質問がきっかけとなって、メソッドとして洗い出して体系化する取り組みが始まりました。

その成果をこちらのブログで記事にしたところ、ネットでバズってプロジェクトマネジメントのメソッドの体系化についてのニーズが高いことを知ったのでした。

これを踏まえて、「じゃあ教育コンテンツを作ろう」ということで始めたのがプロジェクトマネジメントのオンライン講座です。この講座で使用するテキストとして全くのオリジナルのコンテンツを書き上げるのに、丸一年かかりました。
 


プロマネ道場講座用テキストより抜粋

 

自分で書籍を出したいと思ったときの選択肢

オンライン講座開始後はお陰様で1年で複数社・100名を超える受講者を得ることができて一定の手応えを感じるようになったのですが、やはりより多くの人にメソッドを届けるという点では限界を感じる部分がありました。そこで、やはり書籍を出版して誰でも買えるようにしたいと考えるようになりました。

「書籍を出版する」ということを考えた時、今はいくつかの選択肢があります。

  1. 出版社から商業出版をする
  2. 出版社から自費出版をする
  3. 自社で Kindle などで電子書籍を出版する
  4. 技術書典などで同人誌として出版する

「1. 出版社から商業出版をする」はいわゆる一般的にイメージする「書籍の出版」です。著者が出版社に企画や原稿を持ち込んだり、編集者から著者にアプローチすることで原稿の執筆が始まり、書籍を作り上げ、出版して印税をいただく形です。

ただ、本を書いたと言うと、よく「夢の印税生活ですね!」と返されることがありますが(笑)、日本語圏のみを対象としたビジネス書は相当売れないとそれだけで生活を立てることは難しく、多くの人が自身や自社の社会的評価の向上、社会貢献を目的にしているのではないかと思います。

商業出版のメリットはなんと言っても、全国の書店に本を並べることができたり、電子書籍を同時出版できたり、プロの編集者や校正者、書籍デザイナーの方々に協力いただけるところです。
 

「2. 出版社から自費出版をする」は実は現在、結構盛んに行われているパターンです。自費出版というと、「あまり聞いたことがない出版社から自伝を出すもの」といったイメージがある方もいるかと思いますが、今は有名な出版社でも自費出版の部署があり、起業していると営業がかかってくることがあります。

もちろんプロが関わるため品質も高く、書店の本棚に並んでいると、商業出版と自費出版の違いはほとんどの人にはわからないでしょう。著者のビジネスの宣伝にもなるので、自費出版でビジネス書を出す人も多いようです。

ただ、出版社側のスタンスとして、自費出版は商業出版と比べると当然ビジネス色が強く、どちらかというと「○万円いただければあなたが書きたいものを出版します」という形になり、商業出版のように担当の編集者が書籍としての品質を上げるために時間を使ってゴリゴリフィードバックをくれる、といった形にはなりづらいのが特徴です。また、著者側にそれなりに費用がかかるため、費用対効果を考えると簡単に実行できるものではないのも事実です。
 

「3. 自社で Kindle などで電子書籍を出版する」はおそらく最も手軽に書籍を出版できる方法でしょう。Amazon などのプラットフォーム側の仕組みも整っており、多くのインディーズな書籍が出版されています。

ただ、実際にそういった書籍を見てみるとわかりますが、編集やデザインの入っていないインディーズな書籍はクオリティの面で一般的な商業出版と同等の金額で売ることは非常に難しく、基本的には Kindle Unlimited などで出すことになるかと思います。

Kindle Unlimited では読まれたページ数で支払い金額が決まるため、どうしても派手な表紙を作ってダウンロードさせて、情報量の少ないページを多く読ませるという手法になりがちです。読み手側に Kindle Unlimited のインディーズな書籍はそういうものだというイメージもできてしまっていると思うので、作り込んだ書籍を出版したい場合にはあまり向いていないかもしれません。

また、紙の本を提供したい場合はダイレクトパブリッシングでペーパーバックを売ることができますが、ページのデザインなども自分達でやる必要があるため、こだわりがある場合はかなりの試行錯誤が必要となりますし、やはりプロに依頼するよりはデザインや紙、印刷の品質の面で劣ります。
 

「4. 技術書典などで同人誌として出版する」は自分も共著で出したことがありますが、実は結構オススメです。書きたい内容を原稿に落として、キンコーズなどの印刷社で印刷して、イベントに出展して手売りで売っていくという流れですが、この一連の流れがひとつのお祭り的な感じでかなり楽しいです。

イベントでは周囲でかなりマニアックな技術本が売られていたりするので、参加者としても楽しめます。それなりに売れると、実は結構いいお小遣いになるので、コスパの面でも案外良いです。

ただ、コスパや体験としては良い反面、やはり多くの人にノウハウを届けるという意味では限界があります。
 

これらの選択肢を踏まえて社内で検討した結果、やはり「多くの人にプロジェクトマネジメントのノウハウを提供したい」という目的を重視して「1. 出版社から商業出版をする」を選択することにしたのでした。

まずは正攻法でやろうということで、IT系の書籍を取り扱う出版社に問い合わせフォームで講座のテキストを送りまくった結果、すぐに翔泳社の編集者さんから返信があり、書籍化の話が始まったのでした。
 

本を書くということ

商業出版で本を出すという体験は自分にとって初めてのことだったのですが、これが思った以上に大変でした。昼の仕事(クライアントワークと自社の業務)の繁忙期と執筆活動が重なったため、何ヶ月も睡眠時間を削り、土日祝日も書き、締め切り前は徹夜する、というのを繰り返したため、10年ぶりぐらいに身体を壊してしまいました(笑)。
 


今回は Google Document で執筆。編集履歴が一日中残っている

通常は企画を通してから10-12ヶ月程度で出版というスケジュールだそうですが、元ネタとなる講座のテキストがあったため、約半年でのスケジュールで提示されました。自分自身も元ネタがあるから行けるだろうと思っていたのですが、やってみて「やはりちゃんとした本を書くのは大変なんだな」と実感しました

自分は学生時代に修士課程のゼミや修士論文で指導教官にだいぶシゴかれたり、キャリアの中でニュースサイトの編集長をやったり、普段のプロジェクトのドキュメント作成で文章を書くことには慣れていたりするので、本を書くことについても問題ないだろうと考えていました。

しかし、やはり「一冊の本としての読みやすい文章や構成」という点については理解できていない部分も多く、編集者さんからのフィードバックを反映するための書き直し作業にかなりの時間がかかりました。

当たり前のことですが、印刷された本は後から修正することができず、後から文章を書き換えたり口頭の説明などで補足したりすることができません。また、読み手の集中力を削がないよう文章としての読みやすさは練り上げる必要があります。さらに、文章やイラスト、表の配置やページ割当なども正確に決める必要があります。この確認や調整にも大きな工数がかかるのです。

つくづく「自分の文章技術はあくまでも Web やドキュメント制作向けのものだったんだな」ということを実感しました

編集者さんは決してゴリゴリ言ってくる感じの方ではなくて、言い方などはすごく気を使ってくれるのですが、サラッと書かれた指摘について考えてみると、「この章は全体的に書き直しですね…」というものも結構あり(笑)、最終的には元々あった講座テキストを全面的に書き直すことになりました。

結局、初稿脱稿まで予定より2ヶ月近く押してしまいましたが、編集者さんやDTP、校正の方々のご協力により、なんとか予定通り出版することができました。

実はこの記事を書いている今はちょうど刷り上がったばかりの本をいただいた直後なのですが、デジタルデータだった原稿が綺麗な書籍になっているのは不思議な感覚があります。
 


手元に届いた本

プロジェクトマネジメントを始めたばかりの20数年前の自分はプロジェクトの荒野に放り出されて、不安の中で必死に仕事をしていました。そして、その頃本当に欲しかったのが、プロジェクトに取り組むうえで指針となる「プロジェクトマネジメントの全体観と具体的な考え方やノウハウ」でした。

今もプロジェクトの現場や企業へのコンサルティングの場で、そんな「20数年前の自分」に出会うことがあります。おそらく、日本中にそういう人々がたくさんいるでしょう。この本が彼ら・彼女らに出会うことができ、少しでも力になれればいいなと思っています。

改めて書籍になった自分の文章を読んでみると、この本があれば自分も過去の失敗は防げたな、と思うと同時に、「プロジェクトで四苦八苦していた昔の自分」が成仏するという不思議な感覚を覚えます(笑)。本の評価は読者の方々に委ねますが、おそらく、上記の当初の目的は達成できたのではないかと思います。

みなさんも、もしこのブログの記事でなにか感じることがあったら、ぜひ書籍をお手に取ってみてください。
 

P. S.
ちなみに書籍の出版記念講演を11/22(火)19時からオンラインでやりますので、もしご興味ある方がいらっしゃったらぜひご参加ください。無料なのでどうぞお気軽に。

https://connpass.com/event/262998/

Hashimoto Masayoshi
橋本将功
IT業界24年目、PM歴23年目、経営歴13年目、父親歴8年目。Webサイト/Webツール/業務システム/アプリ/組織改革など、500件以上のプロジェクトのリードとサポートを実施。その経験を元に、誰でも簡単に効果的なプロジェクト運営を行うことができるツール「マンモスプロジェクト」を開発した。世界中のプロジェクトの成功率を上げて人類をよりハッピーにすることが人生のミッション。