プロジェクト管理をチャットツールに頼ると失敗する? そのメリットとデメリットとは

2017/5/11 橋本将功 情報共有

最近はチャットツール(メッセージアプリ)が流行っていて、導入していない現場のほうが珍しい状況です。
「会社で正式に公認はされていないけど、メンバーが勝手に導入して使っている」というケースもよく見かけます。

確かにチャットは便利なツールですが、私は基本的にプロジェクトマネジメントのツールとしては頼らないようにしています。

それは、チャットツールは便利な反面でデメリットも多く、そのデメリットがプロジェクト運営の際には大きなマイナスになりやすいからです。

今回はなぜ私がチャットはプロジェクト管理に向いていないと考えるのか、使うとすれば何に気をつけるべきなのかをお話します。

 

チャットツールのメリットとデメリット

あらかじめお断りしておくと、私はチャットそのものを否定しているわけでありません。チャットはとても便利なツールなので、プライベートでも仕事の連絡(日程調整など)でもよく利用しています。

そもそも、チャットは特に新しいテクノロジーというわけではなく、私が16年前にIT業界に入った頃から既に ICQIPメッセンジャー がよく利用されていて、その後しばらくして Skype が登場し、多くの現場で使われていました。

最近はこれらに加え、LINEFacebook メッセンジャーチャットワークSlack をよく見かけます。

それらを利用してきた経験から、メリットとデメリットの観点で、自分自身はチャットはあまりプロジェクト管理には向いていないと考えるので基本的なコミュニケーション手段として採用していないということです。また経験上、優秀なプロジェクトマネージャーでチャットに頼る人というのも見たことがありません。

 

では、チャットツールのメリットとデメリットは何かを見てみましょう。

チャットツールのメリット

1. すぐに連絡ができる
2. ほぼ誰でも使える
3. 場所を超えてコミュニケーションができる
4. メールのようなお作法がない
5. 費用やソフトウェア的な導入ハードルが低い
6. 既読確認ができる
7. URLやファイルなどを送信できる
8. (サービスによっては)他のサービスと連携して通知代わりに利用できる

メリットの部分は多くの人が理解しており、あまり説明の必要はないでしょう。これらのメリットをよく理解されているからこそ、多くの現場に浸透しているのだと思います。しかし、プロジェクト管理で問題になるのはデメリットの部分です。ここについてはあまり認識されていないようです。

 

チャットツールのデメリット

1. 相手が見えない
2. 情報量が少ない
3. 相手の作業や集中時間に割り込む
4. 相手の時間を細切れに占有する
5. 情報量が増えすぎる(仕事ができる人ほど)
6. 情報が流れてしまう
7. 無駄なコミュニケーションが増える
8. 仕事をした気になる

チャットの問題点をまとめると、1と2の「相手が見えない」と「情報量が少ない」という部分に尽きると思います。これらが3以降の問題に繋がってしまうのです。

チャットは気軽にすぐに相手に情報を届けられる反面、相手が何をしているのかは見えません。多くのツールで受け取り側の状態(「作業中」や「返信できません」など)を伝えられるようになっていますが、ほとんどの人はそれをイチイチ設定しないのが現実です。

考えてみれば、作業への集中は次第に高まっていくものなので、「さあ仕事に集中するぞ、その前にチャットのステータスを変更だ!」と一手間かける人が少ないのは当然のことかもしれません。

また、性格がマジメで誠実なために「すぐに返答しないと悪いな」と考えて常にコミュニケーションチャンネルをオープンにしてしまう人も結構いたり、チャットのレスポンスを仕事の評価に結びつけるマネージャーなどがいたりすると、常に通知がオンになっているのが当たり前の状況になります。

さらに、最近 web やシステム開発で流行っている DevOps と呼ばれる自動化と即時性を重視したスタイルを取り込むと、自動化されたメッセージがひっきりなしに飛んでくることにもなります。

 

こうした状況が何を引き起こすかというと、「チャットのメッセージが他人の作業に細切れに割り込んでしまう」という状態です。さらに、チャットをプロジェクト管理の基本ツールとして設定してしまうと、朝出社してチャットツールを立ち上げた後はこの状況が常態化してしまいます。

プロジェクトに価値を与える仕事、例えば新しいサービス企画を考えたりシステム開発で複雑な機能などを設計する際には「集中して考える」プロセスが非常に重要ですが、チャットは簡単にそれを阻害してしまいます。

つまり、飛び交うチャットメッセージが多くの人の作業や考え事の時間を奪ってプロジェクト全体の生産性やアウトプットの品質を下げてしまうのです。

 

また、チャット導入による心理的な影響も軽視できません。いつもチャットで繋がっていると思うと、「すぐに確認して当たり前、確認したらすぐ返信して当たり前」とか「何かあったらあの人に訊けばいいや」という甘えにつながって、相手が病気や家族の問題で休んでいるときにもどんどんメッセージが送られてくる、ということにもなったりします。今はスマホアプリも一般的なので、簡単にプライベートの時間にも仕事のメッセージが飛んできます。

そして、これが「既読問題」と繋がると、情報のハブになる重要な人に無用な精神的プレッシャーを与えることにもなります。

 

さらに、プロジェクトを掛け持ちしている人はこれらの状況が加速してしまいます。例えば、私はフリーランスとしてプロジェクトマネージャーをやる場合は多いときで5件や10件のプロジェクトを掛け持ちをすることがありますが、そうすると1時間会議に出るだけで200件300件の未読メッセージが溜まっている、などということも起こります。

そのほとんどが自分に直接関係のない調整や雑談や通知関連のボットで、数件だけ重要なメッセージが紛れていたりすると、送った相手は伝えたつもりになっているので、後で大きな時間ロスやミスに繋がる可能性もあります。メッセージが自分に関係があるかどうかは読んでみないと分からないので、確認の手間は減らないのです。

また、チャットはメッセージ単位でのやり取りなので、大量に送信されると重要なメッセージが流れてしまって確認に時間がかかることもあります。これが LINE や Skype, Facebook メッセンジャーなどを複数のツールを併用していたりすると、「あのやり取りってどこだっけ?」という状況になってさらに大変です。実際、そういう状況になっている現場は結構あります(笑)。

またサービスによっては、プランごとにメッセージ保持数や容量が決まっていてお金を払わないと確認できないケースもあり、この場合は慌てて(社内決裁が間に合わない場合は自腹で)クレジットカード決済を行う必要があります。

 

「リモートワークでは人間関係の毛づくろい的な意味で雑談が大事」ということも言われたりしますし、私もそれは否定しませんが、それが本来の仕事の生産性や品質を下げてしまうようでは本末転倒だと言えるでしょう。また往々にして、雑談で盛り上がる相手というのは業務と直接関係ない人だったりするものです(笑)。

生産性の低い現場を見ていると、会議や昼休みの合間にダラダラとチャットで雑談をして、人が少なくなる定時後に集中が必要な仕事をやるというケースがよくあります。もちろん、たまにそういう日があるのはいいと思うのですが、これが常態化している現場や組織というのは結構よく見かけます。

無駄なコミュニケーションは省いて集中して仕事をして、サクッと定時で切り上げて飲みに行くなりプライベートを充実させるほうが人間関係の構築の効率も高いはずです。

 

コミュニケーションの「同期」と「非同期」を理解しよう

結構いろいろとチャットのデメリットを書いてしまいましたが(笑)、最初に書いた通りチャットは全然ダメだと言いたいわけではありません。

相手のレスポンスがすぐに必要な場合や、打ち合わせの日程を決める際などはチャットは優れた情報伝達手段ですし、例えばシステムのリリース作業の際など、常にみんなが張り付いていて URL などを迅速に共有する必要がある場合などは不可欠なツールだとも言えます。

重要なのは、チャットは相手の反応を想定した電話や対面での会話に近い「同期(時間を共有する)コミュニケーション」のツールであることを理解して、「非同期(時間を共有しない)コミュニケーション」と使い分けることです。

上で「優秀なプロジェクトマネージャーはチャットに頼らない」とお話しましたが、それはこの違いを理解しているからなのです。

 

チャットはどうしても文字情報がメインになるため、一定の情報のやり取りをするのに時間がかかります。
友達や彼氏彼女と LINE で何気なく始めた雑談がなんだかんだで時間を取って、「これなら会って話すか電話したほうが早かった…」と思ったことはありませんか?

雑談ならそれほど気を使わなくてもいいのですが、シビアなコミュニケーションも発生する可能性があるビジネスでメッセージを伝える際は、やはり対面や通話のほうが情報伝達の効率も高く誤解が生まれにくいため、相手とやり取りする必要があるときは、例えばチャットで「タイミングいいときに通話させてください」とか「いついつ軽く打ち合わせさせてください」などと伝えるのが、お互いの時間を無駄に使わず無用なトラブルも発生しなくてよいのです。

最悪なのは、チャットだけで新しい仕事を振ったりネガティブな影響をもたらす大きな変更点を伝えることで、これをやるマネージャーやリーダーはまずメンバーから信用を得られません。

コミュニケーションというのは双方向的なものなので、文字や言葉だけでなく相手の非言語コミュニケーション(身振りや表情、仕草など)も含めて伝えて相手を確認することが大事です。

 

コミュニケーションのフローとストックを使い分ける

コミュニケーションには同期と非同期があるというお話をしましたが、これは「フロー(流れ)」と「ストック(蓄積)」という視点にも繋がります。
対面での打ち合わせや通話、チャットなどはフローですが、メールや議事録などはストックに当たります。

一般的なプロジェクトではフローのコミュニケーションは盛んに行われているものの、ストックの部分が弱いことが多いのです。

コミュニケーションのストックが弱いと、せっかく時間をかけて話し合ったのに「あれってどうなったんだっけ?」と関係者が決まったことを忘れて同じ話をする羽目になったり、記憶がズレてしまって「言った言わない」のトラブルにつながってしまうことになります。

とはいえ、不便なメールで議事録を送っても後で誰も読み返さないですし、ファイルサーバーに置いておいても存在自体が忘れ去られてしまいます。

フローで効率的に話し合ったことを後で参照しやすい形でストックしておくことができれば、情報が整理されてその後のプロジェクト管理をスムースに行うことができます。

 

さて、ここからは製品のご紹介です。

マンモスプロジェクトでは「ノート」と「ディスカッション」という機能を使って、効率的に情報をストックしておくことができます。

 

ノート

ノート機能では、wiki のようにオンライン上で情報を更新して共有することができます。Word よりも編集が簡単なので、プロジェクトの目的や目標などをどんどん更新することができます。

決まった要件や仕様、開発環境の情報などをまとめておくと「あの情報ってどこ行ったっけ?」などということが起こらず、とても便利です。

 

ディスカッション

ディスカッションでは、特定のテーマなどに沿って決まったことや伝達事項をチームに一括で伝えたり、要件などを話し合うのに使うことができます。

誰でも簡単に使える掲示板で、返信したり添付ファイルを共有することができます。チャットのようにメッセージが流れていかないので、何週間何ヶ月前のやり取りでも明確に確認することができます。

ミーティングや電話、対面で話し合ったことを箇条書きなどでサクッと簡単に共有しておくと、後で「言った言わない」で揉めることもありません。

「コミュニケーション方法の設計」については案外時間をかけて検討されることが少ないですが、そこで決めた方法は長期間に渡ってプロジェクトの効率や生産性に影響を与え、さらにチームや組織の文化にも広がります

コミュニケーションの同期と非同期、フローとストックの違いに配慮してベストな方法を選択することができれば、よりプロジェクトは成功に繋がるでしょう。

 

Hashimoto Masayoshi
橋本将功
IT業界24年目、PM歴23年目、経営歴13年目、父親歴8年目。Webサイト/Webツール/業務システム/アプリ/組織改革など、500件以上のプロジェクトのリードとサポートを実施。その経験を元に、誰でも簡単に効果的なプロジェクト運営を行うことができるツール「マンモスプロジェクト」を開発した。世界中のプロジェクトの成功率を上げて人類をよりハッピーにすることが人生のミッション。