友人に「ブログで読みたいネタある?」と訊いたところ、「上司が仕事できない時、どうやってプロジェクトを進めたらいい?」と聞かれました。
このブログではプロジェクトの効率的な進め方などをお話しようと思っていたのですが、確かに現実でぶつかる問題ってそういうのですよね。
というわけで、今回は「上司が仕事しない、仕事できない場合にどうやってプロジェクトを進めればいいか」、そのポイントをお話します!
フリーランスや起業家の人も、上司をクライアントに読み替えればほぼ当てはまる話になると思いますし、また既にマネージャーの方も、どうすれば部下の仕事を邪魔せずに組織としてパフォーマンスを上げられるかが分かるかもしれません。
プロジェクトをリードするときの基本的な考え方
あらかじめお断りしておくと、私がサラリーマンをやっていた頃の上司はみなさん素晴らしい方々でした。よくサラリーマンから聞く「上司、仕事できね〜な〜」みたいなストレスは抱えておらず、むしろ未熟な自分をよく見守ってサポートしていただいたと感謝しています。
ただ、私はこれまで90件以上のプロジェクトをやっていて、延べで言うと1000人以上の関係者とプロジェクトをやってきたので、確率論的にどうしても似たような問題に対処せざるを得なかったというのが実際のところです。
大きなプロジェクトで関連企業の担当者の上司がそういうタイプだったり、またフリーランスや企業として仕事を受注する場合などはちゃんとしたクライアントを選ばないと大変なことになる可能性もあります。
そうした現実から、今回お話するような考え方や技術を身に着けてきたのです。
一口に「仕事をしない上司」とか「仕事ができない上司」とか言っても、様々なパターンがあります。そのタイプのごとに「攻略法」は違うのですが、それらをお伝えする前に、権限が十分でない時にプロジェクトをリードする際の基本的な考え方をお伝えしようと思います(ちなみに、現実的にはプロジェクトをリードする際に必要十分な権限が与えられているケースのほうが少ないと思います)。
ずっと同じ企業で仕事していたりすると、どうしても視野や考え方が狭くなりがちですが、下記のような考え方を持っていると、上司が仕事しない、できない時に無理をしすぎたり悩みすぎて精神を病んだりすることを回避することができます。
1. 世界の広さを知っておく
2. ロジックとエビデンス、アウトプットベースで仕事する
3. 社内政治にとらわれない
では、個別にご説明しましょう。
1. 世界の広さを知っておく
基本的にはこれに尽きると思います。
プロジェクトをリードできる人は責任感の強い人が多いと思いますが、あまり抱え込みすぎないことが大事です。莫大な予算や人が動いているプロジェクトでは「失敗したらどうしよう…」と夜も寝られなかったり、上手く行かない時に心が折れて会社に来なくなる人などがいますが、そもそも失敗するプロジェクトというのは 83.6% と多く、医療などと違ってミスで直接人が死ぬことはありません。
だから失敗していい、ということではなく、「新しい物事に取り組んで成功させるのはそれほど難しいことなのだ」と考えて積み上げ式で前向きに取り組むのが正しい姿勢です。悲観的になりすぎてストレスを抱えてパフォーマンスを落としてしまうほうが現実の問題としてプロジェクトに影響を与えます。
また、プロジェクトの成功率は高くありませんが、それをリードする中で得られる経験や知見というのは自分の中で確実に積み上がるもので、プロジェクトが終わった後も役に立ちます。
名前も知らない企業があっという間に成長して上場したり、東芝やシャープのような老舗の大企業が報道されているような状況になってしまう昨今、一つの企業で「勤め上げる」ことは極めて難しい時代ですが、転職や独立した時に頼りになるものは前職の名刺や肩書きではなく「実際に自分で何をやってきたか」なのです。
どんな企業でも新しい収益を求めるために新しいプロジェクトや新規事業をやっており、それを担える人材は極めて不足しています。IT人材白書によると、実に 96% もの企業が「新しい事業やサービスを創出できる人材を確保できていない」と回答しています。
つまり、実際にプロジェクトをリードして得られる経験や知見はとても高く評価され、上司や周囲に頼ってプロジェクトを成功させるよりも自分自身にとって役に立つのです。
「大事なプロジェクトがあるのに上司が仕事しない、できない」という状況はその場だけで見ると悲劇ですが、後々評価される実績につながると思って試行錯誤してみることはチャンスでもあるのです。
2. ロジックとエビデンス、アウトプットをベースに仕事をする
上司がどんなタイプかでプロジェクトをリードする方法は変わりますが、基本となる方針は「ロジック(論理性)とエビデンス(論拠となる事実)、アウトプット(資料)をベースに仕事をする」ということです。
仕事の経験が浅いうちに上司が仕事しなかったりできない場合に、周囲や上司のさらに上司に文句や不満を言ってどうにかしようとするケースがありますが、これはまず上手く行きません。
なぜなら、企業の上層部は社歴が長かったり肩書きが重い人のほうを重視するものですし、実績もないのにただ批判を口にする部下は「めんどくさい奴」だと認識するからです。仮に言い分が正しかったとしても、マネージャーの言動を糺したり異動させたりするよりは社員クラスを動かすほうが楽なので、どうしても軽視される傾向にあります。
特に「事なかれ主義」のマネージャーが多い日本企業ではそうなりやすいでしょう。
また、仮に経営層や上層部に問題意識がうまく伝わったとしても、「じゃあお前の言い分を立証するものを用意しろ」となるはずです。
大事なプロジェクトをアサインしたマネージャーが仕事できなかったり仕事していないというのは企業の経営にとって大きな問題なので、証拠無しに物事を動かすのは極めて難しいことなのです。「仕事ができていないのではないか」と疑われる上司もきっと抵抗するでしょう。それは経営陣や上層部にとって「面倒なこと」なのです。
物事を動かす際に自分の手を離れて人々を動かすのは感情的な物言いや個人的な主張ではなく「論理性やそれを支える事実、それらが記された資料」なので、これを常に意識して作成する必要があるのです。
それらがあって初めて、「どうやらこいつが言っていることは本当らしい、あのプロジェクトには1億円の投資が懸かっているので動かさないとまずい」という話になるのです。これは外部企業の担当者やその上層部を動かす際も同じです。
3. 社内政治にとらわれない
上司部下の関係のことを考えたときに、今でもやはり多くの企業で「派閥」のような社内政治は避けられません。
金融機関のように出身大学で「学閥」が形成されているところはもう少ないでしょうが、営業畑か技術畑か人事畑か、みたいな話は今でも一般的に語られます。
社内政治は特に人が多い企業ではキャリアコースを非公式に形成するものとして、人事面では人材登用の意思決定をシンプルにしたり、社員の視点では特定の上司に取り立ててもらって効率的に出世できる、という効果がありますが、プロジェクトの成功という観点で見るとデメリットが大きく出ます。
あるマネージャーがプロジェクトを自分の「手柄」にしようとすると、敵対するマネージャーやその部下は積極的に協力しようとはしません。むしろ妨害行為を仕掛けてくる可能性もあるでしょう。
多くの組織では誰かを見る際に「どこそこ部署の人」とか「誰それの部下」という見方をすることが一般的で、上司に取り入ったりしていることが客観的にも明らかになると、それだけでプロジェクトの成功率は大幅に下がります。
組織で仕事をする以上はどこかの部署に所属することは避けられませんが、特定の上司に取り入るこことができてもプロジェクトが失敗して上司ごと飛ばされたりすることになれば本末転倒です。
プロジェクト的に仕事をして自分のキャリアを作っていくのであれば、上司にゴマをする飲み会に付き合うよりは、客観的に物事を判断できる資料作りなどに時間を割きましょう。
仕事をしない・できない上司のタイプを知ろう! 簡単診断フローチャートと攻略法!
さて、お待たせしました。上司タイプ別に攻略法をお伝えしましょう。下記の図で自分の上司やクライアントがどのパターンに当てはまるか調べてみてください。
判断ポイントはたったの2つです。
判断ポイントは「能力の有無」と「悪意の有無」の2つですが、簡単に説明しておきましょう。
基本的に日本人は善意で他人を解釈する人が多いと思いますので、どうしても能力や相手の意志の判断について甘くなってしまう傾向があります。何かあると「でも、いい人なんだけどね」で締めてしまって問題点が忘れ去られてしまうことが多いのです。
これは「プロジェクトという現実」に向き合う際にはあまりいいことではないので、下記の点を踏まえて判断するといいでしょう。
a. 能力がある/ない
能力の有無は、そのプロジェクトを遂行するのに必要なスキルと経験のことです。
例えば、「個人としては優秀だけど、経歴は営業畑で顧客管理システムの開発導入プロジェクトの責任者」という場合は「能力がある」には当てはまらないことが多いでしょう。この場合、もちろん営業の業務知識は必要ですが、システム開発導入にはITの基礎知識やプロジェクトマネジメントやプロダクトマネジメント(製品開発)のスキルや経験も必要だからです。
また、どれくらい挑戦的なものかにもよりますが、あるプロジェクトを実施する際に最初から必要十分な知識やスキルを持っている人がリーダーになるケースは実際のところ稀なので、新しい知識を柔軟に吸収できる学習意欲や試行錯誤を乗り越えるタフさも大事です。
b. 悪意がある/ない
悪意の有無は、そのプロジェクトを成功させるつもりがあるかどうかで判断します。
「人柄としてはいい人だけど、他に大きなプロジェクトを抱えていて正直このプロジェクトはどうでもいいと思っている」みたいな場合も、会社の予算執行や投資に対するサボタージュ(消極的な抵抗)なので「悪意がある」と判断できます。
本人的にはプロジェクトを成功させるつもりがあっても、部下の手柄を自分のものにしようとしたり、また失敗を部下に押し付けようとするケースも、上で書いた通り社内政治によってプロジェクト遂行に悪影響を与える可能性があるので、「悪意がある」と見ていいでしょう。
自分が相手を個人としてどう思っているかどうかとは別に、「プロジェクトを遂行して成功させるのに適格かどうか」で冷静に上司を判断することが大事です。
それでは、各タイプごとに見てみましょう。
タイプA 「モンスター型上司」 の傾向と対策
タイプAの「モンスター型上司」、つまり「能力はあるけど悪意もある」というタイプは最悪だと言えるでしょう。0から100で残念度を表現すると、最高値の100です。このタイプの上司に当たってしまった人は本当にご愁傷様です…。
このタイプは能力や実績があるだけに経営層からの信頼も厚いことが多く、自分の出世欲や社内政治などのために自分が権限を持つプロジェクトをわざと振り回すこともあります。
最近は「クラッシャー上司」や「サイコパス」などの言葉が浸透して、またパワハラがかなり社会的にも問題視されるようになっているので理解されつつありますが、今でも「オレは◯人の部下を潰してきた」などと平気で自慢するような人はいます。
悪意の中身は「流れ上引き受けたがこのプロジェクトはやりたくない」とか「転職を考えているのでどうでもいい」とか「とにかく安くこき使ってやろう」とか「単純に部下であるあなたが嫌い」など、人によって違うでしょうが、プロジェクトの中身がわかっているだけに妨害工作も巧妙なケースがあります。
経験の浅い部下にわざと難易度の高いプロジェクトを丸投げして失敗させたり、また外部から請けた案件のクライアントがこのタイプだと、プロジェクト完了前後に難癖を付けて必要な支払いをしないケースもあります。
このパターンだと分かったら、できるだけその上司のプロジェクトのリードは引き受けないようにするか、どうしてもやる必要がある場合は自分がちゃんと仕事をしていることを後々示すためにも、上で書いたような「論理性やそれを支える事実、それらが記された資料」を作りながら仕事を進めましょう。とにかく記録を残すことが重要です。
そして、それらの資料を元に上司以外(経営層や他部署のマネージャーなど)にも共有して、異動願いを出したり転職活動をして支配下から逃げる努力をしましょう。
こうしたクライアントから請けている仕事なら契約を切る方向に行かないと、社内が疲弊して人材が流出し、利益も確保できません。
そもそも挑戦度の高いプロジェクトはそれ自体が大きな精神的ストレスになりますので、このタイプの上司やクライアントを抱えると鬱になったりして、人生に深刻なダメージを負う可能性もあります。あまり事態を軽視せず対応することが大事です。
タイプB 「承認マシーン上司」 の傾向と対策
タイプBの「承認マシーン上司」、つまり「能力はあるけど悪意はない」タイプの上司はタイプAとはうって変わって、考えようによっては望ましい上司と言えるかもしれません。「上司本人はスキルも経験もあるけど、抱えている仕事が多すぎてプロジェクトに関われない」というケースが多いと思います。どんな組織でも、できる人には仕事が集まるものです。
上司が表向きに「プロジェクト責任者」とされている場合は、部下として「遂行にも関わってほしい」と思う気持ちは理解できますが、上司にスキルや経験があれば必要なサポートやアドバイスも得やすいですし、ちゃんと「論理性やそれを支える事実、それらが記された資料」を持って取り組んでいれば要所要所での判断や承認も得やすいはずです。
こうした上司は日本で理想化されやすい「背中で語る」タイプではありませんが、自分自身が成長するチャンスを得られるという意味では望ましい上司とも言えます。
こうしたタイプは忙しくてコミュニケーションが取りづらく、また仕事ができるために鋭い印象を受けることがありますが、そこはあまり気にせずにこまめに報告を上げていくと信用されるようになります。
ただ、「やって当たり前」と部下の働きに甘えられるようになると困るので、評価面談などでは自分がやったことをちゃんと資料を元に伝えて、貢献を思い出してもらうことが大事です。
タイプC 「典型的無能上司」 の傾向と対策
タイプCの「典型的無能上司」、つまり「能力がないのに悪意はある」というタイプは、よく居酒屋で会社員の愚痴の対象になるような上司ではないでしょうか。プロジェクトの中身も分かっていないのに偉そうに口だけは出して自分の影響力を確認しようとするタイプです。よく聞くのは、例えばシステム開発の佳境になって気分で要件を変更したり機能を追加しようとしたりするようなケースです。
残念度は70と高いですが、現場や外部環境の必要性に即したマネージャーの評価や配置がうまくできていない大企業などではよくこうしたエピソードを聞くので、当たる確率は高いかもしれません。
このタイプに当たったら、タイプAのモンスター型上司と同じように「論理性やそれを支える事実、それらが記された資料」を作りながら仕事を進め、それらの資料を元に上司以外(経営層や他部署のマネージャーなど)にも共有して、異動願いを出したり転職活動をして支配下から逃げる努力をするのが良いでしょう。
ただ、タイプAのモンスター型上司と違って希望があるのは、その上司が無能であることは経営層や周囲のマネージャーも理解していることが多いので、配置転換などが案外すんなりと通ることです。
上で書いた通り、どの企業でもプロジェクトを回せる人材は足りないので、そうした人材を再配置して組織のパフォーマンスを上げようと考えるのは自然なことです。人事面でも「上司部下の相性」という一般的な問題として対処できるため、変に感情的になってトラブルなどを起こさなければマイナス評価になることも少ないでしょう。
しかし、経営層や人事などが個人的な心情などで上司の無能さを冷静に理解できていない場合は状況が改善される見込みは少ないので、やはりプロジェクトで実績を作りつつ、転職活動をするのがいいと思います。
タイプD 「形だけ上司」 の傾向と対策
タイプDの「形だけ上司」は「能力はないけど悪意もない」というタイプです。これもルーチンワークや個人プレーで出世できる企業でプロジェクトを実施する際によく聞くパターンですが、悪意がないぶん、残念度は40と低めです。
タイプBの承認マシーン型上司と違うのは、上司に能力がないため、説得や必要な判断を得るのに時間と労力がかかることです。これは労働時間に反映されて毎日残業をする羽目になったりするので、「あいつより安い給料でなんで俺がこんなに動かないといけないんだ!」というストレスに繋がりやすいことが大きなマイナス面です。
ただ、これが上司ではなくクライアントの場合は相手にプロジェクトや専門領域の知識がないことは当たり前ですので(だからプロジェクトを外注しているのです)、例えば独立起業したり、多くの企業が関わる大規模プロジェクトなどで自分に決定権がない場合にリードできるかどうかは、こうした上司の下でうまくやれるかどうかで判断できると言えるでしょう。そういった意味ではスキルと経験を確かめられる試金石とも言えます。
この「形だけ上司」の対策ポイントは、上司がプロジェクトの難しさや複雑さを経験やスキルですぐに理解できないので、先回りしていろいろ考えたり資料を作成したりする必要がある点です。これにはプロジェクトの先読み能力が求められますが、経験とスキルが少ない場合はなかなか難しいのが現実です。
もし自分に経験とスキルが足りない場合は必死に勉強する必要があるでしょう。
また、相手が作業や専門性の価値がわからないために、評価につながらなかったり、安く買い叩かれたりすることにつながりやすいのもデメリットと言えるでしょう。世の中には読みやすくて整理されている綺麗な資料を作るのにスキルと時間が必要なことを知らなかったり、「300万円もあれば Facebook を作れる」と思っている人は結構多いのです(笑)。
さて、今回は友人のリクエストに応じて、「上司が仕事しない、仕事できない場合はどうやってプロジェクトを進めればいいか」をお話しました。
タイプごとに気をつけるポイントは違いますが、基本は同じです。あまり悲嘆に暮れず、自分ができることに集中するのが一番大事だと思います。
リアルタイムでプロジェクトの記録を残して資料などを補完したり共有するには、ぜひマンモスプロジェクトの利用も検討してみてください。余裕がない若きリーダーのお役に立てること請け合いです。