人材エージェントのレバテックさんからお声がけをいただいて、「フリーランスの生き残り方」について講演を行ってきました。
当初20人の枠のところ、50人近くに来ていただいて、「フリーランスという生き方」に対する意識の高まりのようなものを感じました。
現代社会におけるフリーランスとは
私自身でフリーランスをやったり、また発注者側や経営者として外部の方に仕事をお願いすることもあり、様々な立場で「フリーランス」と関わってきました。
特に現代のプロジェクトは競争環境の変化が激しく、また高い専門性や多様な経験を持つメンバー必要とする状況にありますので、フリーランスとの関わりは切っても切れないものになっています。
例えば、経営上の要請で新規プロジェクトをやることになった場合、その遂行に必要なプロフェッショナルを集めるのに社内の人材だけで事足りる、という企業は極めて珍しいはずです。
中途採用で埋めるにも、超売り手市場の今は採用コストばかりがかかってしまって時間やお金を浪費し、さらにプロジェクトを実施できないことによる機会損失が膨らむことにもなりがちです。
こうした状況でフットワークの軽い百戦錬磨のフリーランスの方に協力してもらうことで、早期のプロジェクト開始やプロジェクト遂行の品質の維持などが可能になるのです。
今後、こうした傾向は強くなることはあれど弱まることはまず無いと思いますので、企業側も労働者側も「フリーランス」という働き方についてよく知っておく必要がある時代になっていると言えるでしょう。
フリーランスがハマりやすい「落とし穴」とは
ただ、フリーランスは会社員と違って「守ってくれる組織」がありませんので、リスクコントロールにはよく気をつける必要があります。また、社会保障や税制度などの社会の仕組みも、何だかんだでまだ企業の正社員に最適化されたものになっています。
フリーランスとしてキャリアを積む際に何を気をつけておかないといけないか?
こうしたフリーランスにまつわるリスクのコントロールをよく理解しておかないと、「せっかく独立したのに、変なクライアントに使い潰されてメンタルを病んでしまった」というパターンにもなりかねません。
このあたりのノウハウは経験を積むうちに見えてきたりもするのですが、それまでに「地雷」を踏んでしまうとダメージが大きいこともあり、自分自身の経験と関わってきた方々から聞いた話などを総合して、セミナーでは「よくある落とし穴」とその回避方法、キャリアの作り方についてお話してきました。
話の中身についてはスライドを見ていただければと思いますが、基本的には「案件や企業担当者の見極めと、お金周りの手続き、法律の知識が極めて重要になる」というお話になっています。
このへんを杜撰にやると、かなりの確率で案件がブラック化してしまって、フリーランス寿命が短くなってしまいます。認識のズレによるトラブルや裁判沙汰、不払いなどに発展する可能性もあります。
リスクコントロールを適切に行って、フリーランス最大の強みである「仕事を選べる自由」を存分に発揮しましょう。
質疑応答の内容
講演後はかなりたくさんの質疑をいただいたのですが、特に記憶に残っているものは下記のものです。
Q: 技術トレンドは追うべきでしょうか?
A: トレンドはバブルになりやすいので、「注視しつつ追わない」が正解かなと思っています。
例えば今だと「ブロックチェーン技術のエンジニア募集」みたいな案件が高い単価でたくさん出ていたりしますが、こういう技術トレンドを追った案件というのは発注者側が技術の使い方を理解していないために適切なプロジェクト運営を出来ないことも多く、仮にそういう案件に入れたとしても、「聞いていた話と全然違う仕事を任されて疲弊する」みたいなことにもなりがちです。
車を作れるエンジニアに延々とパンク修理をさせているようなプロジェクトや企業というのは結構多いのです。
特にITのトレンドは数年で入れ替わって、それに振り回される企業や担当者も多いので、変に関わってキャリア的に疲弊しないよう着実に仕事ができるプロジェクトに参画したほうがいい、というのが私の見解です。もちろん、マトモな募集もあると思いますが、事前に見極めるのは結構難しいのではないかと思います。
Q: ギルド型の組織だとメンバー同士の繋がりが希薄になりがちですが、何か回避策はありますか?
A: 何か共同プロジェクトを始めるといいですよ。
フリーランス同士が集まって組織化するギルドスタイルの法人は増えていると思いますが、仰る通りみんな忙しいので、集まる機会が少ないというのはよくあることだと思います。私はスタートアップやっているので順番が逆なのですが、自社ブログでもアプリでも何でもいいので、「みんなで一緒にやるプロジェクト」を始めるといいのかなと思います。
フリーランスをやる中でモチベーション的に課題になるのは、いい仕事をやっても案件が終わるとハイサヨナラになるので「プロジェクトや製品にオーナーシップを持てないこと」だったりしますが、共同プロジェクトが少しずつでも拡大したり収益化していくと、みんな愛着が出て組織としても繋がりが出てきます。
Q: 新卒でやりたいこととは違う業界の会社に就職することになりました。いつフリーランスを検討するのがいいですか?
A: まずその会社で数年働いてみて、やりたい仕事のことも勉強しつつ転職や独立を考えたほうがいいと思います。
上にも書きましたが、会社員はなんだかんだで組織に守られています。ビジネスパーソンとして活動するための教育をしてくれたり、目の前の仕事を覚える以外のことを考えなくてもよい環境を作ってくれたりします。
このありがたみは独立するまで気づきませんが、コストが膨大にかかる大変なことなので、存分に活用した方がいいと思います。仕事のベーシックを覚えて、社内で「この専門性なら組織内でトップクラスに入れるな」ぐらいになってから独立すれば、案件を選びつつキャリアを作っていくことができるでしょう。
Q: 「35歳限界説は過去のもの」というお話がありましたが、エンジニアなど上流工程以外の職域でも通用しますか?
A: はい、40歳以上の専門職の人はたくさんいますし、50歳以上の人とも一緒に仕事したりしますよ。
経験を積むことのメリットの一つは、「ひとつのタスクを実施する時の試行錯誤の効率がいい」ということです。例えばある機能を実装するとき、経験が少ない20代では考えられる選択肢を総当り式で実装やデバッグについて試行錯誤をせざるを得ないことがありますが、ある程度経験を積んでいると、「どのあたりにリスクがあって、何をすれば実装できるか」の目処がすぐ立ったりします。そうした効率性と生産性の高さは代えがたいものがあるので、そこに理解があるクライアントには高く評価されるでしょう。
また、業務経験を元にしたアドバイスや社員教育、業務改善などをお願いされることも多く、そうした付加価値を高く評価するクライアントもたくさんいます。逆に言うと、そうしたことができないと単価や作業内容だけで比較されがちなので、意識的に設計や教育スキル、コンサルティング能力などを磨いておく必要があるかなとは思います。
Q: 自分の職種/業界が先細りなのですが、どうすればいいですか?
A: フリーランスの鉄則は「斜陽産業(企業)で働かない」ということだと思います。スキルが活かせる領域/業界に方向転換したほうがいいでしょう。
フリーランスが得る収入は基本的に企業の「固定費」(社員の給料など)ではなく「変動費」(年度ごとのプロジェクト予算)から支払われます。ほとんどの企業はまず固定費を確保して変動費を景気や企業の業績によって変えるので、右肩下がりで投資が少ない領域や分野では、会社員よりもリスクを取っているフリーランスのほうが報酬が少ないという逆転現象が起きたりします。なので、参画する市場が伸びそうかどうかを考えてキャリアを考えたほうがいいでしょう。
IT業界全体で見ると超売り手市場なのは今後も変わらないと思いますが、分野によっては競争環境の変化や規制等で大幅に市場が変わることもありますので、先細りになりそうな領域や分野で仕事を探すよりも、多少一時的に単価が下がったりしても成長が続く方向にシフトチェンジしたほうがいいと思います。
セミナーの最中も質疑応答も、皆さん真剣だったのが印象的でした。
これからの変化が激しい時代、フリーランスも一般的な働き方として定着して社会の枠組みも変わっていくといいなと思っています。