最近、IT業界の友人から「良いリーダーとそうでないリーダーの違いって何?」と訊かれました。
彼はいくつもの現場を渡り歩いてきた百戦錬磨のフリーランスなのですが、若干「人を見る目」に不安があるということで、その質問を受けたのでした。
IT業界ではWebサイトやシステムなどを作ったりするので、プロジェクト的な働き方が大きなウェイトを占めます。つまり、どんなプロジェクトに参加するかでQOL(生活の質)そのものが大きく変わってしまうのです。
良くないリーダーに当たってしまうと、ずっと何をやるのか分からないまま待たされて暇な日々を過ごしたかと思うと、急に納期を知らせてきて、毎日徹夜で家族や健康や趣味を犠牲にすることになる、というような羽目になってしまいます。
こうしたケースは、プロジェクト経験が長い人は一度は経験したことがあるでしょう。
成功するプロジェクトと失敗するプロジェクトの大きな違いはコミュニケーションにあり、特にリーダーの力量が大きなポイントになります。
つまり、どのリーダーのプロジェクトに参加するかで、生活の質が変わるのです。
あなたも、いつ知り合いから「今度起業するので手伝ってくれない?」と相談されるか分かりません。
その時に、相手が信用できるリーダーかどうかをパッと判断できるといいですよね。
そんなことができるのか?
はい、できるんです。
同業者の力量を一番理解できるのは同業者ですからね。
良いリーダーとそうでないリーダーの決定的な違い
まず最初に答えを言ってしまうと、リーダーの質の差を決定的に分けるのは「想像力」です。
プロジェクトというのは、0から1を生む仕事です。これを複数の人で作り上げていくので、とても不確実な要素が多いのです。
「作るべきもの」が見えているか、プロジェクトのゴールに辿り着くまでに何が必要か、ある判断をするとプロジェクト全体がどうなるか、それぞれのメンバーの負荷はどうなっているか(仕事が少なすぎたり多すぎたりしないか)、メッセージの伝え方は間違っていないか、などなど、そうした全体や細々としたことについて想像できるかが大きな違いになってくるのです。
ただ、この想像力というのはなかなか目に見えにくいところでもあります。
そこで、見た目でわかる「要注意リーダー」のチェックポイントを挙げてみましょう。
これらは全て「想像力」が足りないというサインです。
「要注意リーダー」のチェックポイント
- 忙しいアピールが多い
- 成果物を出さない
- 馴れ馴れしい
- 無駄なプレッシャーをかける
- 過去の業績を誇る
1. 忙しいアピールが多い
実際に忙しい時期があるのは仕方が無いことですが(プロジェクトを推進するにはやるべきことがたくさんあります)、徹夜や休日出勤などの過重労働をメンバーに自慢気にアピールするリーダーには気をつけましょう。
これは自分の責任範囲の把握と作業の見積りが下手であることを示しています。こういうリーダーのプロジェクトに参加すると、余裕のない進行と突発的な対応が待っています。
また、忙しいアピールが多いリーダーは、プロジェクトがトラブルになった時に「他の忙しい理由」を盾にプロジェクトから逃げてしまうケースもあります。そうなると、誰かがリーダーの代打に立たなくてはなりません(当然、引き継ぎなどはなく、プロジェクトの失敗の責任を負う羽目になります)。
2. 成果物を出さない
なぜか、世の中には「リーダーは成果物を出さなくてもいい」と考えている人がたくさんいます。おそらく、肩書としての組織の「マネージャー」とプロジェクトの「リーダー」を混同しているのでしょう。
マネージャーとリーダーの違いは、マネージャーが仕事と責任の割り振りを管理すればよいのに対して、プロジェクトのリーダーはひとつの案件を取りまとめて推進しなければならない点にあります。
「マネージャー」と「リーダー」の違い(http://modernservantleader.com/)
リーダーとしてプロジェクトを推進するには、ビジョンを企画書に落としたり、作るものの要件や仕様を作ったり、進捗を確認したり、発生した課題を分析して対処法を作ったりする必要があります。こうした細々とした成果物は、見たり批判したりするのは簡単でも、作るのは大変です。確実なものが少ない状況で「決め」を作っていくのは不安で孤独な作業でもあります。
そこから逃げたくなる気持ちはわからなくはありませんが、明確な「決め」がないプロジェクトはメンバーの間で認識がズレて状況が混乱した時に一気に崩壊します。
炎上でメンバーの生活を犠牲にしないために、リーダーがちゃんと「決め」の成果物を出せるかどうか、話だけで物事を進めようとしていないかどうか。ここは大事なポイントです。
3. 馴れ馴れしい
馴れ馴れしいリーダーも注意が必要です。これまでたくさんのリーダーを見てきましたが、優秀な人は全て礼儀正しい人々でした。
よく若い人達でチームを組んでプロジェクトをやると、仲の良さと信頼関係を混同して馴れ馴れしいコミュニケーションが日常的になったりしますが、これは結構危険だったりします。
仲の良さというのは個人同士の相性や親しさがベースになりますが、プロジェクトの信頼関係はそれぞれが受け持つ役割と専門性への敬意の上に成り立ちます。
また、プロジェクトのリーダーをやっていると、プロジェクト全体を進めるために一時的に誰かに無理をしてもらうお願いをする必要があることもあります。馴れ馴れしいコミュニケーションをやっていると、これが「甘え」になって、頼ることに無頓着になってしまうのです。
馴れ馴れしいコミュニケーションで特定の優秀な人物に頼りっきりになって、ある日その人が爆発したり去ったりしてプロジェクト全体がクラッシュする、これもよく見かける光景です。
4. 無駄なプレッシャーをかける
「プロジェクトのリーダー」という立場を利用して、メンバーに無駄なプレッシャーをかける人がよくいます。上の「ボス(マネージャー)とリーダーの違い」とも関連しますが、別にリーダーは偉いわけでもなんでもないのです。
メンバーにプレッシャーをかけるという行為の背景には、主に納期や業績に対するリーダー自身の不安がありますが、プロジェクト全体の納期や業績と個々のタスクは本来別のものです。プロジェクトというのは有機的なものなので、営業成績などとは異なり、ひとつひとつのタスクを積み上げた合計がプロジェクトの成果になるわけではないのです。
例えば、状況や前提が変わることによってタスクの優先順位は変わりますし、ある場合には予定していたタスクをやらなくていいという変更が入ることもしばしばあります。
確かに、メンバーの怠慢や学生症候群(締め切りが迫らないと仕事をしないこと)に対するマネジメントは、プロジェクトを進める上で重要なポイントではあるのですが、それはプレッシャーをかけるだけで対応できるものではありません(ここについては今度書きたいと思います)。
また、プレッシャーをかけると人は萎縮してしまうので、(特にマイナスの)情報が適切に上がらないというデメリットも発生します。これはプロジェクトの発展や危機管理にとって大きなデメリットになります。
自分の不安をメンバーにプレッシャーという形で転嫁するリーダーはマネジメント能力の低さを示していますので、要注意です。
5. 過去の業績を誇る
これも多くのリーダーを見ていると気づくことなのですが、過去の業績を誇る人は要注意です。昔取った杵柄、というやつです。
例えば、「すごい人が来た」と鳴り物入りで転職してきたけど全然ダメで多くの人を振り回した結果、窓際に直行してしまった、みたいなケースはよく見聞きします。
これはなぜかと言うと、プロジェクトの成功は一人の力で成し遂げられるものではないからです。
プロジェクトを成功させるには、リーダーのスキルと努力、メンバーの献身や協力、組織や外部からのサポート、そして運がそれぞれ重要な要素となります。プロジェクトが高度であればあるほど、どの要素も無視できなくなります。
本人が喧伝する「すごい業績」を達成した人の過去の事例を関係者に聞いてみると、実は会議で偉そうなことを言っているだけだった、サポートしてくれる人に恵まれていた、影のリーダーが別にいた、ということはよくあるのです。
また、プロジェクトというのは一期一会で「同じプロジェクト」というのは存在しないので、新しいプロジェクトを引き受けるリーダーには必ず新しいチャレンジがあります。
経験が多くスキルの高いリーダーはこれらのことをよく知っています。過去にどんな業績を成し遂げたとしても、次のプロジェクトで同様の成果を達成できるとは限りません。それを身に沁みて知っているので、優秀なリーダーは過去の業績を誇らないのです(飲み会などで、ポロッと「すごい過去」を話してくれたりします)。
これらの5つのポイントは全てのケースに当てはまるとは限りませんが(あるリーダーは上のポイントに当てはまっているけど運に恵まれてプロジェクトを成功できたということもあるでしょう)、私が数多く見てきた「未熟なリーダー」には共通して見られる特徴でした。
優れたサッカー選手にそれぞれのスタイルがあるように、優れたリーダーにもそれぞれのスタイルがあります。しかし、ボールコントロールが下手な一流サッカー選手がいないように、優れたリーダーにも共通して見られるポイントがあるのです。
「良いリーダー」に共通するポイントは、「礼儀正しく丁寧で、常に謙虚な人」です。そこに、プロジェクトで求められる専門性が確認できればバッチリでしょう。
実際、私が見てきた優れたリーダーは全員そういう人々でした。
今では転職も一般的になり、フリーランスなど案件ごとに仕事を請け負う生き方が増えてきました。また、起業という形で可能性に賭ける人もいるでしょう。
そうした選択をするということは、即ち、自分がリーダーになったり、リーダーに可能性を託すということでもあります。
ダメなリーダーにならないようにすること、ダメなリーダーに付いていかないことは、その選択の正しさを考えるときに重要なポイントとなるでしょう。