2015年は東京五輪の問題で持ちきりでした。背景には様々な利権や政治的な事情があり、ネットではそれらが批判されているようですが、そうした事情を外して考えてみても、そもそもオリンピックのような「誰もやったことがない新しいプロジェクトを成功させること」はそう簡単なことではありません。
私が15年以上関わっているIT業界でも、システムやWebサイト、アプリ開発などの新しいプロジェクトが日々行われていますが、その成功率は必ずしも高くはありません。
日経コンピュータの調査によると、何と「システム開発プロジェクトの94.5%に深刻な問題が発生し、そのうち89.9%が同じ失敗を繰り返している」そうです。
実際、私も長いキャリアのなかで失敗するプロジェクトや、鬱になってしまう人、退職したまま再就職できない人、恋人や家族が犠牲になった人、さらにもっとひどいことになってしまう人々をたくさん見てきました。
私がやっているスタートアップの世界も非常に過酷で、アメリカでは3年で92%が消えてしまいます。そして、起業家の約半数が精神的疾患を抱えているそうです。
「そんなに難しい物事ならわざわざ挑戦しなければいいじゃないか、言われたことだけやっていればいい」というのは確かに個人としては合理的な考え方ですが、現在の高度なビジネスの世界では、「新しい価値」を追求しないとすぐに大量生産・低価格競争に巻き込まれてしまい、労働力を安く提供させるブラック企業が蔓延し、最終的には業界や社会全体がジリ貧になって滅びてしまいます。つまり、儲かるのは外資の企業ばかり、という今の日本の状況です。
スティーブ・ジョブズが生み出した iPhone も、出てきた当初は「日本には i-mode がある」とか「電池が持たない」とか「タッチパネルじゃなくてボタンがいい」とか、いろいろ使わない理由を挙げている人がたくさんいましたが、今や市場を席巻してしまいました。一時は日本産のケータイは性能と使いやすさで世界を凌駕していましたが、今では見る陰もありません。
顧客は「携帯電話とはこういうもの」と新しい挑戦をせず端末のモデルチェンジで利益を上げてきた日本企業のビジネスよりも、アプリやコンテンツのプラットフォームで新しい価値を提供する Apple の挑戦のほうに心を動かされたのです。
携帯電話以外でも、日本企業の工業製品は1980年代までは世界中のどこに行っても文句なく「No. 1」で世界中から信頼されていましたが、今や日本でも Apple や Microsoft, Amazon, Google などのアメリカ企業の製品やサービスが日常的に使われるようになりました。
最近では、かつての「日本を代表するハイテク大企業」が数字をごまかしたり事業を売却したりリストラするというニュースで溢れています。
また、こうした日本全体の右肩下がりの競争力は数字にもハッキリと表れています。
- 一人あたりGDP(購買力平価):2000年3位→ 2014年 26位
- GDP 世界シェア:91年 9% → 2015年 約4.88%(予想)
- 労働生産性:2014年 21位(OECD加盟国34カ国中)
労働者の賃金も、97年から比べると10%以上低下しており、このように低下の一途を辿っているのはOECD加盟国で日本だけです。
引用元: http://blogs.yahoo.co.jp/norrie_sky/25468004.html@>
こうした現状は、国中が高度経済成長期の古い成功体験に囚われたまま、やり方を変えずに続けてきた結果でしょう。
また、ご存知の通り、日本は人口が縮小し、さらに少子高齢化で現役世代の負担がどんどん上がっています。給料が下がる一方なのに、負担はどんどん増えている状況なのです。
本来はこうした世代間格差の問題に対処するのは政府の仕事なのですが、政治家の選挙対策のために高齢者を優遇する政策はどんどん推し進められる一方で、現役世代や若い世代を支援する政策は滞ったままです。
日本の現役世代、さらにもっと若い世代にとって、自分たちを後押ししてくれる希望になるようなニュースというのはかなり少なく、このまま何も考えずに進めば国中がジリ貧になってしまうことは間違いないでしょう。
こうした現状を打破して希望を作っていくには、やはりみんなで新しい価値を生み出す試みをやっていくしかありません。
リスクを取って、誰もやったことがないプロジェクトに取り組んでいくしかないのです。
しかし、闇雲にプロジェクトに取り組んでも、やはり最初に書いた通り失敗してしまう確率が高いでしょう。
新しいプロジェクトを成功させることが重要なのは多くの企業が認識しているのですが、ある調査によると、そうした人材を確保できている企業はわずか4.4%です。つまり、ほとんどの企業は新しい挑戦を成功させるのに必要な人材を採用したり教育したりすることができていないのです。
プロジェクトには適切なノウハウがあり、それを踏まえて実行することが重要なのですが、そのノウハウを実務で学ぶのは運の要素が大きく、また抽象的な概念を扱うため言葉で伝えにくい部分があるため広めることが難しいのです。
私はたまたま、15年以上のキャリアの中で運に恵まれてプロジェクトのノウハウを身に付けて厳しい現場を生き残ることができ、また若い人々を教育する機会を得ることができました。
多くのプロジェクトを見てきて、いつも「ちょっとしたノウハウを知らないために失敗してしまうプロジェクトを少しでも減らしたい」と思いながら業務に取り組んできました。プロジェクトを成功させる技術というのは、壮大な理論を勉強するというよりも、日常の業務で利用できる「ちょっとしたノウハウ」を知っているかどうかが大きなポイントなのです。
その「ちょっとしたノウハウ」は長年の実務や勉強、先輩からのアドバイス、仲間からの忠告などで鍛えられていくものですが、それは必ずしも個人の努力だけで得られるものでもありません。
そこで、プロジェクトをうまく成功させるための「ちょっとしたノウハウ」を伝える連載を始めることにしました。そして「プロジェクトの分かりにくさ」をカバーするために、4コマで「RPGの勇者が仲間と一緒に冒険の旅に出る様子」を表現します。
記事を読んで、4コマで勇者達の冒険を見ていくことで、自然とプロジェクトやチームワークのコツを学べるようになっています。
プロジェクトとはまさに冒険であり、旅なのです。