前回の記事で、主人公ピーターは幼なじみのスティーブと小さなアイディアを育ててうまく計画するところまで持っていくことができました。
今回は、その「計画を始めるところ」がテーマです。
目次
計画は最後まで考えよう
アイディアをうまく育てて具体的な計画に落とし込んでいくと、そのアイディア自体が活き活きとしてきて、とても「イケる感じ」がしてきます。
ITの開発プロジェクトでも、良いプロジェクトはこの計画の段階でとてもワクワクするものです。チームの活気が溢れてきて、自然と行動したい気持ちになります。「人が付いてくるプロジェクト」というのは、アイディアから計画の段階をうまく進められてきたプロジェクトです。
逆に、トップダウンで政治的な理由や金銭的な理由だけで始まるプロジェクトはこのワクワク感がなく、最初から「推進する力」が足りず、無理に進めてもうまくやり遂げることができなかったりします。
良いアイディアを計画していると、見切り発車ですぐにでも行動したい気持ちになりますが、そこはグッと押さえて、そのプロジェクトが達成する「完成のイメージ」まで計画しておくことが大事です。
ちょっとシビアな例になりますが、こうした「計画を詰められるかどうか」は戦争でも勝敗を分ける原因になります。
真珠湾攻撃で太平洋戦争を始めた日本軍には、最終的にどうやってアメリカ軍に「勝つ」のか具体的なイメージや計画はありませんでした。日露戦争のように「相手に大ダメージを与えれば自分たちに有利な条件で講和条約を結べる」という甘い期待で開戦したのです。
一方、アメリカ軍は太平洋戦争が始まる20年以上前の1919年に「オレンジ計画」という対日戦争計画を作っており、実際に太平洋戦争はほぼこの計画のアウトラインに沿って進められ、日本軍は無条件降伏まで追い込まれました。
計画を実際に立ててみるとわかりますが、計画に重要なポイントでも「やってみないと分からないこと」も多く、またプロジェクトを始めてみると予想もできなかった事情が発生することも頻繁にあります。それでも、計画を立てることは大事なのです。
例えば、初めて行くところに向かう時、最初はスマホの Google Map で調べて、これから向かう大まかな方向と、どの電車に乗るか、降りたらどっちの方角に向かうか、などの経路が分かっていれば良くて、目的地の最寄駅に近づいたら、改めてどの交差点を曲がるかやどの信号で待つかなどの細かい点をチェックすれば良いのです。
最初から細かく全ての経路の交差点やどの信号で待つのか、何メートル進むかなどの全ての詳細を把握しておく必要はありません。
プロジェクトの計画も似たようなもので、まずは大まかな行動とスケジュールのアウトラインを引いて、やることの詳細は状況を確認しながら少しずつ詰めていけば良いのです。
(実際、リーダーやプロジェクトマネージャーの力量は、プロジェクトの全体像を適切に把握できているかにかかっており、経験やスキルの低いリーダーの場合は、細かすぎる物事や目の前の突発的な状況に振り回されて計画全体があやふやになってしまうケースが非常に多いのです。)
承認が部分的でも気を落とさずに
計画を立てたら、最後のイメージに到達するには「何がどれくらい必要か」が見えているはずです。
会社員として新企画を提案するには、上司から予算や人材の采配などの承認を得る必要があるでしょうし、スタートアップの場合は自分や家族が大金持ちでなければ、ベンチャーキャピタルの担当者や個人の投資家、銀行や国民金融公庫などの担当者に事業計画を説明して投資してもらう必要があります。
大きな結果を生み出そうとして、計画が壮大になればなるほど当然費用は大きくなりがちですし、プロジェクトを始めた後に減り続ける資金のストレスのことを考えたら、予算はあればあるほどいいと考えるのが人情でもあります。
しかし、「サイフには限界がある」のが世の中の常です。
企業が新規事業にかける予算は通常の予算とは別に設けられていることが多く、よほど余裕がある企業でもない限り、枠が十分に大きくないことが多いものです。特に、今の日本のように長期的な経済成長が見込まれていない状況では、企業はどうしても投資に対してサイフの紐が固くなりがちです。
「本業はどう見ても右肩下がりで業績も落ち続けているのに、それを挽回するための新規事業にはほとんど予算が当てられていない」という企業はとても多いのです。また、国や自治体の公的な投資でも、どう見ても落ち目な大企業の救済には多額の資金が注ぎ込まれる一方で、新しい産業を担うスタートアップには小額しか投資されていないのが現状です。
とはいえ、投資する側の立場から見ると、「上手く行くかどうか分からないものに大金を賭けることはできない」というのも合理的な判断です。
仮に自分が企業の社長だとして、ある日突然、若手社員が「起死回生の新規事業に10億円と社員20人を預けてください」と言われたらどう思うでしょうか? そしてもし、その10億円で1つの部署を最低1年は養えるという事実があったらどうでしょうか。
自分の企画が承認されなくて愚痴る会社員は多いですが、承認する立場のことを考えると、それがいかに難しい判断かを理解することができるでしょう。
計画は小さく始めよう
計画は最後まで考えなければ勝てない。しかし一方で、成功するかどうか分からない計画をいきなり全て承認することは難しい。そして、新しい挑戦をしていかなければ、これからの世界で生き残れないのは個人も企業も同じです。
この3つの矛盾を乗り越えるにはどうすればいいか。
計画を段階に分けて、そのアイディア(仮説)が本当に正しいのかを試していけばいいのです。
例えば、新規事業を成功させるには10億円必要でも、新製品の試作品は1000万円と5人で1年かければ作ることができるかもしれません。
試作品が思った通りにできなければ新事業は当然失敗するので、最初の投資としては1000万円と5人で済むのです。仮に計画が失敗しても、部署を解体したり社員をリストラしたりする必要はないでしょう。試作品がうまく作れれば、さらに投資していけばいいのです。
自分が案を提案して承認してもらう側でも、部分的な承認を貰って成果を少しずつ積み上げていくという発想が重要です。
(多くの人が「苦労して作った計画」が完全に承認されないと自分が否定された気になって、やる気を失ってしまいます。また逆に、意気込みを買われて始まった「社運を賭けたビッグプロジェクト」が何の成果も生み出せずに終わってしまうこともよくあります。)
「計画を部分に分けて成果を積み上げる」という考え方は最近流行りの「リーンスタートアップ」という方法論にも反映されており、少しずつ浸透してきてはいますが、まだ一般的な認識になったと言える状況ではありません(「リーンスタートアップ」が本当に自分のプロジェクトの役に立つかはまた別の問題としてありますが)。
よいアイディアを生み出せる人は少なく、さらにそれを具体的な計画に落とし込める人も多くはありません。そして、「計画」として意を決して判断を仰いだ時に、思った通りの承認が得られず、それでも覚悟を決めて実際に物事を進められる人はさらに少ないのです。
しかし、世の中の多くの人はそのことを実はよく知っていて、新しい計画を始める人を心の底では応援しています。
新しいアイディアとそれを実現するための壮大な計画、そしてそれを進める覚悟ができれば、あなたは「勇者(リーダー)」としてプロジェクトの冒険を始めることができるのです。