さあ、いよいよ勇者達の冒険の始まりです。前回の記事で一同は故郷の城下町を離れ、魔王を倒す旅に出ました。
プロジェクトもスタートアップもキックオフをすれば、仲間と共に次々と襲いかかってくる問題と戦っていかなければなりません。
しかし、その際に一人一人がうまく協力しあってチームとして助け合わなければ、強敵、つまり複雑な問題には勝てません。
では、個性や考え方の違う個人を集めてチームにするにはどうすればいいのか?
今回のテーマはその「チーム作り(チームビルディング)」です。
目次
- お互いを知ろう
- 長所と短所を組み合わせてチームを作る
- チームの責任を持つのはリーダー
お互いを知ろう
人は全く別の個性を持っています。送ってきた人生も全て違い、考えていることも全く違います。よく「日本人は画一的で没個性だ」などと言われますが、実際に目の前にいる人のライフヒストリーや趣味、仕事、家族の話を聴いていくと、みんな別の個性を持っていることに気づくでしょう。
そんなバラバラな個性の人間が集まって一つの目標を追いかけるというのは、考えてみればとても不思議なことです。
人類史的にみると、類人猿の時代から人は群れを作って様々な「協力」をすることで繁栄してきました。共同で外敵から身を守り、狩りをし、作物を育て、子育てを行い、さらに高度な政府や企業を作って協力の範囲を広げることで、20万年前にアフリカを出発したサルが今や70億という規模で地球上に栄えることができるようになったのです。
実際、個人で出来ることは非常に限られていますが、異なる個性や能力を持った人々が協力し合えば、宇宙開発などの極めて高度なプロジェクトなども実現することが可能なのです。
では、人がお互い協力できる関係を作るときに、重要なポイントは何か? それは「相手がどんな人なのかを知ること」です。
- 相手はどんな価値観を持っていて、自分と相性が良いかどうか
- 相手はどんな長所を持っていて、どんな短所を持っているのか
- 自分が協力した時に相手が裏切らないかどうか
こういったことが分からないと、人は疑心暗鬼になって、自分の力を十分に発揮できません(優秀な人材がチームとして能力を発揮できない時、組織が個人の努力に対して裏切っていることがほとんどです)。
その手段は飲み会や研修、レクリエーションでも何でもいいのですが、仕事で集まっている場合はやはり「一緒に仕事をする」のが一番効果的です。
人は面接や打ち合わせ、飲み会などの表面的な付き合いでは取り繕うことができますが、利害の伴う仕事を一定の期間、一緒にしていれば、相手のことは大体分かるものです。
(人事や採用で現場にフィットしない人を採用してしまって困っている企業は多いですが、これもやはり一緒に仕事をすれば相手が自分たちにマッチするかどうかはすぐに分かるので、本採用前に単発でもいいので一つのプロジェクトをやると効果的です。)
また、この時に重要なのは「信頼関係」と「仲の良さ」を混同しないことです。
「良いプロジェクト」というのは異なる専門性やスキルを持つ人々が集まって、信頼関係を元にそれぞれの知見から意見を出し合うものなので、仲の良さや慣れ合いがあると、そうした適度な緊張感が保てなくなってしまいます。
特に若い人だけで集まって始めるプロジェクトやスタートアップでは、内輪ノリだけで進めてしまって、困難が訪れた時に全員が一気にグダグダになってプロジェクト全体が潰れてしまったりするので、その点にはよく注意しましょう。
長所と短所を組み合わせてチームを作る
お互いのことが理解できたら、リーダーはそれを「チームとしてまとめ上げること」が重要です。
一般的にはこのプロセスを「チーム作り(チームビルディング)」と言いますが、私はサッカーになぞらえて「チームのフォーメーションを作る」と言っています。
プロジェクトでは、野球のように固定化された役割よりも、サッカーのように流動的な関係性で考えるほうがしっくり来るケースが多いからです。例えば、DB設計やインフラの整備など、プロジェクトの重要な工程はゴールキーパーのように堅実な仕事をするエンジニアを割り当てるけど、状況によってはその人が便利な新機能の提案をするなどの「ゴール」を決めてもいいわけです。
プロジェクトやスタートアップでは良いことも悪いことも何が起きるかわからないことが多いため、お互いの個性や能力を踏まえて、柔軟性のあるチームを作っておくことがポイントです(つまり、プロジェクトに何かが起こって早急な対応が必要な時に「それ僕の仕事じゃないんで」という言葉が出ないチームにすることが重要なのです)。
柔軟性があって協力的なチームを作るコツは、メンバーの長所と短所を組み合わせることです。人は誰しも完璧ではありません。誰にでも能力的な長所や性格的な短所があり、また病気や家庭の事情など、本人にはどうしようもできない事情が起こることもあります。そうした前提に立って、お互いの良いところを出し合い短所や事情をカバーし合うことができれば、協力が主体になるチームを作ることができます。
例えば、「創造性があるけど勤怠が安定しない」とか、「ITリテラシーは低いけどビジネスのことをよく知っている」とか、「自分の専門領域は強いけど応用が効かない」とか、実際のプロジェクトではこうした生身の人間が集まってやるものですが、全員を一つの基準でジャッジするのではなく、お互いを一人の人間として尊重してチーム全体で力を出せるようにすることが重要なのです。
また、助け合いや協力ができるチームは、メンバーの長所を理解して自分の短所を見つめて改善することで個人の成長につながる機会を提供することにも繋がります。
人が育つチームとそうでないチームの違いは、こうしたチーム作りの部分によるところが大きいのです。
チームの責任を持つのはリーダー
チームのフォーメーションができたら、今度は「タスク(作業)を割り振って、チームを回していくこと」が必要です。
プロジェクトマネジメントの教科書などでは、この部分を「WBS(作業分解図)を作る」と言いますが、重要なのはこのWBS をプロジェクトの変化に応じて更新し続けて、常にメンバーに最新の状況を伝えることです。サッカーに例えると、ボールをパスしたり、ゴール前に走り込むように指示する、というようなイメージです。
よくあるのが、プロジェクトの設計段階でタスクの割り振りを WBS として作ったものの、その後全く更新されないまま進み、想定外の状況が起こった時に「それ僕の仕事じゃないんで」みたいな話になってタスクがこぼれていく状況です。また、そうしたこぼれそうなタスクを全て拾って一人だけ重荷を背負っている人がいる、みたいな状況にもなりがちです(その人が病気になったり辞めたりすると、プロジェクトは一気に崩壊します)。
こうした状況は本当によく見かけるのですが、なぜそうなるかというと、リーダーが状況を判断して必要な指示や対策をちゃんと行わないからです。
特に日本人は個人主義と平等主義、そして自己責任論が強いため、「他人に指示をする」ということについて遠慮しがちです。その遠慮が判断と対処の遅れに繋がり、手を打つのが遅くなるケースが非常に多いのです。
また逆に、状況の判断が適切にできていないのに権力を傘に着てゴリ押しで仕事を丸投げでメンバーに押し付けたりするなど、「ボスとリーダーの違い」が分かっていないケースも多く、チーム全体が右往左往して炎上するプロジェクトもよく見かけます。
学校や会社でチームワークやリーダーシップについて習ったことが何回あるか思い出していただくと分かるかと思いますが、我々は基本的に「上の指示に従うこと」や「個人で成果を上げること」については嫌というほど教えられていても、「チームに必要な指示をどうやってメンバーに効果的に出すか」などのチームワークについてはほとんどの人が無知なのです。
リーダーとして他人に指示を出す際、考え方として一番重要なのは(コミュニケーションのやり方などいろんな細かい技術はありますが)、「プロジェクトやチーム全体を見て必要な判断を行い、その結果の責任をリーダーがちゃんと持つ」ということです。
リーダーの資格はほとんどそれだけで決まると言ってよく、仮に肩書きや社内的なポジションが何であろうと、そこができていない人はリーダーとは呼べません。また逆に、その覚悟が出来ていれば、その人は明日からリーダーになることができます(メンバーに認めてもらう必要はありますが)。
「成功はみんなのもの、失敗はリーダーの責任」。大きなプロジェクトを成し遂げたければ、この哲学が大事です。