前回の記事で、勇者はリーダーシップを学びました。チームはうまく一体となって活動できるようになりましたが、魔王のところにたどり着くのはまだまだ先です。自分たちのペースが掴めて周囲が見えるようになってくると、気になるのが周囲の「ノイズ」です。
実際にプロジェクトやスタートアップをやっていると、周囲の情報はとても気になるものです。社内プロジェクトなら、他のプロジェクトや影響力のある幹部の意向、会社の方針などが気になるでしょうし、スタートアップなら他の企業の業績や資金調達などが気になるのは当然のことでしょう。
本当はそんなことを気にせずにサラッと自分のことだけをやっていればカッコいいのですが、周囲の状況を適切に把握することも必要なので、全く無関心でいるというわけにもいきません。
周囲から聴こえてくる音の中から「サイン(兆候)」と「ノイズ」をいかに見極めていけばいいのか?
今回は「ノイズとのつきあい方」がテーマです。
目次
- 一番大事なのは感情に流されないこと
- 他人の成功よりも失敗に学ぶ
- 気持ちが揺れたら信頼できる人と話す
一番大事なのは感情に流されないこと
プロジェクトやスタートアップをやっている時、一番気になるのは「他人の成功」でしょう。
メディアでは日々いろんな企業の成功例をエピソードとして伝えていますし、書店や Amazon などを覗くと、「私はこうやって成功した!」みたいな本がいくらでも見つかります。
Facebook や Twitter などのソーシャルメディアでも、キラキラした成功はすぐに飛び込んできます。
これはインターネットによる高度情報化の副作用のようなもので、現代は他人の成功がとても気になりやすい時代だと言えるでしょう。
コツコツと小さな積み重ねを日々やっていると、そうした他人の成功がとても眩しく見えて、無力感に囚われてしまうことがあります。特にプロジェクトやスタートアップの初期は目に見える成果が出にくいので、とても周囲が気になってしまって、どんどん不安と焦りに繋がってしまう場合もあります。
大きな成果を出すことを目標にしている場合、不安と焦りは別の問題を生んでしまうことに繋がります。
例えば、スタートアップでは自分たちの事業が思ったように進んでいないと、不安や焦りを仲間のせいにして責任を押し付け合ってしまい、それがチームの決裂に繋がって、最終的に仲間割れで全体が潰れてしまうのです。
ここで大事なのは、不安や焦りに流されないよう進捗は進捗として冷静に捉えて、他人と比較することをやめることです。
とはいえ、感情をコントロールするのはなかなか難しいので、ひとつの考え方を覚えておくといいでしょう。
それは、「他人の成功はあまり参考にならない」ということです。
他人の成功よりも失敗に学ぶ
なぜ成功事例が世の中に溢れているかというと、そこから学んで自分も成功したいと思う人が多いからでしょう。人は模倣することによって物事を習得する生き物です。
しかし、メディアの仕組みを見てみると、必ずしも社会的な成功では模倣がうまくいかないケースが多いのです。
そもそも、企業や個人が自分たちの成功例をアピールするときは、PRとしての意図が多く含まれています。
例えば、「ウチのプロジェクトはエンジニアを大事にして成功しました!」という事例を公表するときには、「エンジニアを新しく採用したい」という意図があったり、製品の業績を公表するときは「新しく顧客となる人を呼び込みたい」という意図があるものです。
それ自体は特におかしなところのない通常の企業活動の一貫ですが、それを第三者が「成功事例」と受け取ってしまうと、大きく判断を誤ってしまうことがあるのです。
例えば、「エンジニアを大事にしています!」と言っている企業が実際はゴリ押しの営業で身を立てていたり、「ウチはこんなにアプリがダウンロードされています!」と言っている企業が実際はダウンロード数をお金で買っていたりするケースはたくさんあります。
嘘をついているとは言えないにしても、実態としては「言っていない物事のほうが真実」だったりするので、そうした企業の真似をしてしまうと、「こんなはずじゃなかった」というような事態に陥ってしまいます。
また、起業家の自伝や成功エピソードなどを好んで読む人もいますが、実際に側にいた人に聞いてみると、「創業者の戦略よりも No.2 の地道な取りまとめのおかげで事業が成功した」などという事例もたくさんあります。
人は自分たちのアピールをする時には、そこに「自分の利益に繋げよう」という意図が入り込むもので、また客観性も十分確保されているケースは多くないものです。つまり、他人の成功事例を「自分の成功の参考にする」という考え方で受け取っても、あまり有効ではないことが多いのです。
ただ、成功事例はあまり参考になりませんが、失敗事例はそうではありません。人は自分の失敗を語りたがらないものですが、そこには一定の真実があり、パターンがあります。
例えば、プロジェクトが失敗するときはほぼ下記のようなパターンで起こります。
- 計画や細かい決まり事についてのコミュニケーションを怠る
- 冷静に状況を分析して着実に物事を進めることを忘れて、仲間を批判し始める
また、スタートアップの場合は上のプロジェクトのパターンに加えて、下記のパターンが加わります。
- 他人の成功事例や、アドバイス、一時のトレンドに振り回されて、本来やるべきでないことにリソースを割いてしまう
- 業績や資金調達などの一時的な成功に浮かれて、事業でやるべきことを見失ってしまう
細かいバリエーションはあるにしても、人が失敗するパターンというのは実際のところ極めて少ないのが現実です。これらの事例を調べる情報リソースとしては、経産省のベンチャー企業の経営危機データベースや書籍などが有効です。また、社内のプロジェクトの噂などはタバコ部屋や飲み会、スタートアップの噂も飲み会の場で広がっていくのですぐに分かります。
自信がある人ほど「自分は他人と違う」と勘違いして突っ走ってしまいがちですが、謙虚に他の人の事例から学び、ありがちな失敗をできるだけ回避して、自分たちが必要だと思うことを一生懸命進めることがとても大事なことなのです。
気持ちが揺れたら信頼できる人と話す
とはいえ、人は感情の生き物なので、うまくいかないときは外から聞こえるノイズで気持ちが揺れてしまって、物事が手に付かないこともあります。
そうした時は、自分のことをよく知っている人と話すことで地に足を着ける感覚を取り戻すのがいいでしょう。
昔から自分を知っている人は、客観的に自分の良いところも欠点もよく理解しているものです。そして、どれだけ頑張っているかもよく見ているものです。そして、その努力が良い方向に向かっているかどうかも冷静に見ることができるので、そうした人を少し飲みやお茶にでも誘って、率直に悩んでいると相談してみるのがいいでしょう。
できれば直接は利害関係の絡まない人がいいですが、信頼関係があれば付き合いの長い仲間でも大丈夫です。
適切に情報を判断しつつ、感情に振り回されないようにして、自分を見失いそうになったら信頼できる人に相談する。
これができれば、着実に歩みを進めることができるのです。